ヨハネの第一の手紙には「反キリスト(アンティクリストス)」という言葉が出て来ます。この手紙の内容と背景から推し量るなら「反キリスト」と呼ばれているのは「イエスがメシア(キリスト)であることを否定し、御父と御子を認めない者」です。また「反(アンティ)」は「・・・の代わり」も意味するので、イエスではない者をメシア(キリスト)にする者という理解もできるようです。
ここから推察されるのは、1世紀後半の教会のなかに異質な信仰を教える教師が現れ、教会に混乱や分裂が起こっていた状況です。そこからこの手紙が書かれた目的の一つが、混乱した当時の教会が、最初から伝えられた通りの信仰にとどまることを励ますことであったことが分かります。
さて今2000年の時を超えて、現代のわたしたちがこの手紙を読む時に注意したいのは、当時の時代状況の中で特別に使われたこの「反キリスト」という言葉を、自分の立場を守り他者を攻撃するために利用しないことです。これは教会の負の歴史からの教訓です。
むしろ、そのような、自分の立場や考え方を絶対のものとし、他者を攻撃する生き方は、自分を罪から救ってくださる「イエスがメシア(キリスト)である」ことを、実質的には否定してしまっている、プライド高い状態に陥っているのかもしれない、という自分自身への問いかけと、悔い改めへの促しとして、聞き取りたいと願うのです。